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知ってトクするお金の話

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私、社長ではなくなりました ワイキューブとの7435日 安田佳生

ビジネス書籍

1990年、著者の安田佳生がリクルートでの経験を元にワイキューブ社を設立します。

コアとなる事業は中小企業を対象とした人材系のコンサルティング事業、その中でも新卒採用を対象としたコンサルティングを非常に得意としていました。

ベンチャー企業として躍進の一途を辿り、ピークとなったのは2006年?2007年の時期。
この頃、年商は最大で46億円ともなり、業界の新星から不動の地位を築くまでの成長が期待され、就職先としての人気ランキングでも上位に位置していました。

急速に成長したベンチャー企業は他にも多々ありましたが、ワイキューブは中でも特に目を惹く企業として存在していました。

その大きな理由として、社内にBARを作ったり、2年目の新入社員も出張時にはグリーン車に乗せるなどのド派手なブランド戦略がありました。
なぜこのような戦略を取っていたのか?

それは良い人材を多く集めれば、それに比例して会社は成長を速めていくという考えを、著者であり社長の安田氏が強く信じていたからなのです。
前述した通り、新興ベンチャーでありながらも就職先の人気ランキング上位に食い込んでいた程ですから、戦略は当たっていた事となります。

躍進を続けるワイキューブ、安田氏は当時「千円札は拾うな」という著書も出版しており、目からウロコのビジネス思考を学べる書籍として好評を集め、ベストセラーとなっていました。

しかし、煌びやかで希望に溢れた成長の日々は、長く続かなかったのです。
凋落の始まりとなった原因を、安田氏は市場が飽和した事だと言っています。
新卒採用を考える中小企業が対象となるビジネスですが、見込んでいたよりも新卒採用に力を入れて行こうとする会社の数が増えていかなかったのです。

年商46億円のピーク時、ワイキューブ社は市場の約10%を掌握していました。

しかし、それ以上の拡大を目指すに当たってライバルとなるのは、安田氏自身が以前勤めていたリクルートを始め、錚々たる大企業ばかりだったのです。
飛ぶ鳥を落とす勢いのベンチャーとはいえ、体力・規模共に歴史的な大企業には敵いませんでした。

次第に銀行への借入返済も滞るようになり、安田氏返済日の延期を申し入れるために走り回る事にもなっていきました。

派手なブランド戦略を改め、打って変わって節約を念頭に置いた戦略を打ち出し、社員にもその意識が伝わり徐々に利益を生み出せる状況へと回復していきました。
しかしそんな矢先、2008年秋にリーマンショックが起きてしまいます。

売上は激減してしまい、結局これが決定打となってワイキューブ社は民事再生法の適用へと踏み切る事となりました。

本書はこのスピード感に満ちたワイキューブ社の軌跡を、当時の事細かな背景と共に追っていっています。

ベンチャーらしい発想力と安田氏の天才的な采配で一時代を作ったワイキューブ社、凋落の時の状況まで非常にリアルに書かれており、実録のケーススタディとしてこれ以上ない良書と言えます。

反面教師的としてのビジネス論

本書から学べる事は、ベンチャースピリッツや成功のための発想...ではなく、いわゆる反面教師的としてのビジネス論です。
ワイキューブ社の歩みの中で最大の誤算だった、市場の飽和。
自分達のビジネスが、今後どの程度のシェアを獲得出来て、食い込める市場規模はどの程度残されているのか?

ここを見極める事がまず先決であり、どこまでも伸びて行くかのような希望的観測を持ち、先行投資に力を入れる事のリスクがひしひしと伝わってきます。

市場規模の目算が誤っただけならまだしも、方向転換・下方修正をするには身軽なキャッシュフローの中に身を置いているかどうかが重要になってきます。
ベンチャーの強みの1つに、小回りが効きやすいという事があるかと思います。

しかし、優秀な人材を獲得するための投資を行ってきたそれまでの歩みは、方向転換や速やかな事業縮小などにシフトしづらい状況を作っていたのです。
出て行くお金は簡単に減らせるものではなく、それまでは当たっていた投資戦略が一変して足を引っ張る形となってしまいました。

ケーススタディとして、成長し切るまでは突然の状況悪化に備えて、可能な限り身軽なキャッシュフローを保つ事が大切だと教えてくれています。

また、お金の使い方としても身の丈以上の出費をしてしまっては、いくら稼いでも会社は安定しない事を改めて気付かされました。

銀行から借入を行う事自体は悪い事ではないですが、お金の使い道としてワイキューブ社は社員の年収を上げたりもしていたのです。

借金はあくまで借金であり、短絡的な使い方をしては効果に繋がらないどころか、自分の首を絞めてしまいます。

参考:借金を早く返済する方法

入って来るお金と出て行くお金の管理には、必要以上の危機感を持って取り組むくらいが最適なのだと感じさせてくれます。

こういった事などをまとめると、つまりは堅実に石橋を叩いて渡る事の大切さを忘れないようにする事こそが、人生も会社も安定的なステージへと運んでくれるのだと再確認させてくれています。

もちろん、時には無謀とも思える挑戦をする事も大切ですが、リスクヘッジの意識は常に高く保ち続けるべきだと思えました。

会社経営者の立場の方にお勧め

ご自身の決断や采配が会社の行く先に強く影響する会社経営者の立場の方に当然ながらお勧めです。

また日頃から希望ベースで高すぎる目標や理想を掲げてしまうなど、リスクを抱えやすい思考を自覚している方にも必ず読んでおいて欲しい一冊だと言えます。
リスク管理については、様々なタイミングで勉強する機会があるかと思います。

しかし、いちベンチャー企業の設立から民事再生法適用までの顛末が事細かに書かれた本書は、突っ走りすぎる事のデメリットと穴に落ちてしまった時の惨状を実話として伝えてくれていますので、これ以上ないリアリティを伴いリスク管理の重要性を感じ取る事が出来ます。

また、今後起業や独立を考えている方にもお勧めです。

マイナスの部分にたくさん触れた書評となっていますが、やはりスタートダッシュからピーク時までの成長はワクワクさせられるものです。

そこには起業家として輝いていた安田氏の姿があり、やるならばとことんやる・本気で取り組むという姿勢を学ぶ事が出来ます。

その上で、起業するに当たって要注意すべき事とは何なのかが理解出来ます。
上手く行っている時にこそ足元をしっかりと固めるため、何度も読み直す価値のある一冊です。

賢者は他人の経験から学ぶと言いますが、本書を読む事でワイキューブ社の経験を自分のものにし、成長を志しながらも適切にリスクヘッジをして、仕事や事業に取り組んで行く事をお勧めします。

tokunoriben.hatenablog.com

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私、社長ではなくなりました。 ― ワイキューブとの7435日

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